再婚して子どもがいない夫婦の場合でも、被相続人に以前の婚姻での子がいると、その子も法定相続人になります。
そのため、現在の配偶者と前婚の子との間で相続トラブルが起きるケースも少なくありません。
この記事では
・どのようなトラブルが起きうるのか
・トラブルを避ける方法
についてわかりやすく解説します。
基本的な子なし夫婦の相続リスクについては、まずはこちらの記事をご覧ください
法定相続分
法律上、残された配偶者が2分の1、前妻・前夫との子が2分の1の法定相続分を持ちます。
どのようなトラブルが起きうるか
再婚子なし夫婦の相続において、最も大きな壁となるのが「遺産分割協議」です。
遺産分割がうまくいかない
問題は、預貯金や不動産を分けるためには、相続人全員の合意(実印)が必要だという点です。
以前の婚姻での子との関係性によっては、遺産分割がスムーズにいかない場合があります。
現在の配偶者と前婚の子は、日常的な交流がほとんどないことも多く、相続の場面で初めて本格的に話し合いをすることも珍しくありません。
そのため、感情的な対立が生まれ、遺産分割協議が長引いてしまうケースがあります。
- 相手(前妻・前夫の子)の連絡先がわからない
- 連絡は取れるが、感情的な対立があり話し合いができない
- 「法律通りに半分もらう権利がある」と強く主張される
このような状況になると、今の配偶者は自宅に住み続けることすら危うくなる場合があります。
事例
ある法律相談会であったことです。相談者はAさん、子なし夫婦で亡くなられたBさんの配偶者として相続についての相談です。Bさんは再婚者で以前の婚姻での子Cさんがいます。したがって、Bさんの法定相続人はAさんとCさんになります。
相続財産は古い家と多くはない預金だけです。家はBさんの生前から夫婦で住んでいて、今はAさんが一人で住んでいます。Cさんは連れ子ではないのでAさんとCさんは一緒に住んだことはなく、お互いに全く面識がないわけではないが疎遠である関係のようです。
Aさんの思いとしては、今住んでいる家だけは生活のために必要だから、いくばくかの金銭をCさんに渡して相続を完了したいということでした。そしてその旨を既にある行政書士に相談していて、Cさんにはその行政書士を通して伝えてあるといいます。そのうえで、さらにどうしたらよいかと不安で相談に来たとのことです。私は、他の士業が既に着手していることでもありますし、そこまで話が進んでいるのであれば、焦らずにまずは返答を待ってその返答を見てからその先をどうするか考えましょうと答えました。
Aさんが納得して立ち上がった時、「あら?」と言って動きが止まりました。その視線の先は相談会の別の席の相談者で、その人もAさんを見て「あら?」といって二人で見つめ合う格好になってしまいました。その人はCさんだったのです。
Cさんとしては、別段金額のことについての不満があったわけではなく、相続など何もいらないのに突然知らない人がお金を渡すからこれで手を打てと言ってきたということについて気分を害した面が大きかったようです。
結局は二人とも落ち着いてその場で話を交わし、相談会を後にしました。
上記はまだ平和に事が進んだ例ですが、残された家族が遺産分割において協議がまとまらず、大きな労力と時間を費やすことになる事例は少なくありません。場合によってはハンコ代として多額の現金を要求されたり、家庭裁判所での調停や審判に発展することもあり、何年も解決しない事例が後を絶ちません。
トラブルは避けることができる
残された家族が遺産分割で労力と時間を浪費し、精神的に追い詰められる姿は誰も望まないことのはずです。
しかし、生前に「正しい準備」をしておくことによって、残された家族をトラブルに巻き込まないようにすることができます。
残された家族をトラブルから守る方法【遺言】
再婚家庭で相続トラブルを防ぐために最も有効な方法は、遺言書を作成しておくことです。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。これが大変なのです。
しかし遺言書があれば被相続人の意思に基づいて遺産を分けることができるため、全ての遺産について遺言書にしたためれば、基本的に相続人同士の話し合いが不要になります。
特に再婚家庭では、配偶者と前婚の子の間でトラブルが起きやすいため、遺言書によって財産の分け方を明確にしておくことが重要です。
配偶者に財産を多く残すことも可能
遺言書を作成することで、法定相続分に縛られず配偶者により多くの財産を残すことも可能です。
例えば
- 自宅は現在の配偶者に相続させる
- 預貯金は前婚の子と指定の金額・割合で分ける
といった形で、具体的な分け方を指定することができます。
遺言書がない場合の残された家族間での遺産分割協議でもこのようなことはできるのですが、その遺産分割協議が大変なのです。その大変な作業と軋轢を避けるための遺言書です。
ただし「遺留分」には注意が必要
ここで重要なポイントが遺留分(いりゅうぶん)です。
子には、遺言書があっても最低限受け取れる財産の権利(法定相続分の半分)があります。
これを無視して遺言を書くと、後で遺留分侵害額請求ということになることもありえますので、遺言書の作成の際には留意した方がよいでしょう。
公正証書遺言がおすすめ
遺言書にはいくつか種類がありますが、トラブル防止の観点からは公正証書遺言がおすすめです。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言書であり、検認が不要な上に形式不備による無効などの心配がなく、安全性が高いという特徴があります。
再婚家庭のように相続関係が複雑になる場合は、専門家に相談しながら公正証書遺言を作成しておくと安心です。
遺言書と「生命保険」の合わせ技が最強
遺留分トラブルを避けるために、以下の手法を併用するとさらに安心です。
- 公正証書遺言: 前妻・前夫の子の遺留分を侵害しない、あるいは納得感のある配分を明記する。
- 生命保険の活用: 配偶者に現金を用意して、遺留分侵害額請求された場合の資金として準備しておく。(死亡保険金は原則として遺留分の対象になりません。ただし、保険金の額が遺産総額に対して過大で、他の相続人との不公平が著しい場合、例外的に遺留分の対象となる可能性はあります。)
まとめ:あなたの愛が「争族」を止める
再婚子なし夫婦の相続は、放置すれば「争い」の火種を残します。 「うちは大丈夫だろう」という根拠のない安心感が、一番大切な人を苦しめる結果になりかねません。
- まずは法定相続人が誰かを確認する
- 今の配偶者にどれだけ残したいかを決める
- プロに相談して、法的に隙のない遺言書を作る
遺産分割は再婚家庭でなくても揉めやすいものです。残された家族が大変な思いをしないように早めに相続対策を検討しておくとよいでしょう。
